大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成5年(ネ)639号 判決

控訴人

北野逸子

北野雅也

北野裕樹子

右法定代理人親権者母

北野逸子

右三名訴訟代理人弁護士

原田弘

被控訴人

北野ヨネ

北野喜代一

松野加代子

主文

一  原判決主文第一項を取り消す。

二  控訴人らの請求中、前項の部分の訴えを大阪地方裁判所堺支部に差戻す。

三  控訴人らの当審請求を棄却する。

四  当審請求にかかる訴訟費用は、控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者双方の申立

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  原判決中訴え却下部分を原審に差戻す。

(三)  原判決添付別紙物件目録記載一二の不動産は、昭和四七年三月二二日遺産分割協議により訴外亡北野智之が取得したことを確認する(当審請求、交換的訴えの変更)。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人らの負担とする。

二  当事者の主張

当事者の主張は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決添付物件目録のうち「十」「十一」「十二」を順次「一〇」「一一」「一二」と改める。)。

1  控訴人らの主張

(一)  具体的な財産が遺産であるかあるいは一相続人の固有の財産に属するかという問題については、訴訟事項である。代償財産は性質上遺産との同一性があるから、遺産そのものではないけれども、遺産分割の対象となるものとされている。そうすると、具体的な財産が遺産分割の対象となる代償財産か否かということは、遺産と同一性があるか否かということであり、訴訟事項であることは明らかである。

(二)  遺産分割協議書(〈書証番号略〉)について、被控訴人喜代一は、右遺産分割協議書を作成したことはない旨陳述(〈書証番号略〉)するが、しかし、(1) 昭和四七年三月当時、被控訴人喜代一は、亡智之らと同居して生活していたことから、印鑑証明を何に使うかについて当然話をしている筈であり、原判決添付別紙物件目録記載一二の土地の遺産分割による相続登記に全く関知しなかったというのは疑問である。(2) また、昭和五二年五月に被控訴人喜代一の家を建築するに際し、一二〇〇万円が亡智之から支出されているが、これは当時相当多額の金であり、前記土地については智之が相続したものであることを前提としなければ説明が困難である。(3) さらに、昭和五三年一二月智之がアパートを建築するに際し、被控訴人喜代一は連帯保証をしていること(〈書証番号略〉)等からみて、同被控訴人は智之が生家(敷地)を相続することになんら疑問をもつことなく賛成したものと考えられる。

したがって、前記土地は、智之が遺産分割協議により取得したものとみるべきである。

2  被控訴人らの主張

控訴人らの主張はすべて争う。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一各土地及び各建物に関する確認請求

1  控訴人らは、本訴において、現在の権利関係の存否の確認を求めるものとしては、その請求の趣旨が必ずしも整理されたものとは言い難いが、要するに、原判決添付別紙物件目録記載一ないし一一の各不動産は、被相続人北野平治郎(以下「平治郎」という)の遺産でもなければ、代償財産として分割の対象とすべき財産ではない旨主張し、控訴人らの被相続人亡智之の固有財産、したがって、控訴人らの所有であることの確認を求める趣旨であると解される。

ところで、(1) 同目録記録一ないし九の各土地(以下「各土地」という)は、智之が平治郎の遺産を売却し、その代金で別の不動産を購入することを繰り返して(同目録記載八の土地はさらに等価交換、同目録記載九の土地は共有物分割を経て)、最終的に智之名義で取得した不動産であること、(2) 同目録記載一〇及び一一の各建物(以下「各建物」という)は、智之が積水ハウスからの借入金で建築し、その賃借人から入る賃料で右借入金を返済してきたものであることはいずれも当事者間に争いがない。

控訴人らは、右の各建物について、仮に、(1)の経過で取得した不動産の売却金を建築資金の一部に用いていたとしても、各建物は平治郎の遺産として分割すべき代償財産であるとはいえないと主張し、被控訴人らはこれを争い、各土地はもとより各建物も平治郎の遺産の価値変形物たる代償財産に該当し、遺産分割の対象となる旨主張する。

2  原審は、控訴人らの右訴えの適否について検討を加え、

(1)  先ず、各土地について、本件のように相続人の一人が分割時までの間に遺産に属する不動産を他に売却し、その代金を原資として売却をした相続人によって新たに他から購入された財産については、そもそも被相続人の所有に属することはあり得ず、実体上右相続人の所有に帰属する固有財産であって遺産に属しないこと明らかであるとしたうえ、もっとも、このように本件各土地が遺産に属しないといえるとしても、それが遺産の代償財産にあたるとして遺産分割の対象とされることがあるが、ある財産が代償財産であるとして遺産分割の対象に含まれるか否かは実体上の権利の帰属の問題ではなく、遺産分割審判の際に、本来の遺産ではない一定の財産を右分割の対象として分割をすることの相当性の問題ということになり、それは、家庭裁判所がその専権事項とされる遺産分割審判手続においてなす、遺産分割対象財産の範囲決定のためのいわば技術的操作であり、したがって、代償財産性の有無及びその範囲如何の問題も結局どのように財産を配分するのが相当かという問題と密接に関わり、これと分離して考察できないものであるから、各土地が遺産分割の対象となるべき代償財産か否かを確定するということは、家庭裁判所がその非訟的裁量により行う審判事項の範囲に含まれ、訴訟事項たりえないものといわざるをえず、控訴人らの右各土地についての請求は、それ自体民事訴訟によって判断を求めることができない事項であり、右訴えは不適法というべきであるとし、(2) 次に、各建物についても、結局、控訴人らが求めるところは各土地におけるものと異ならず、各建物を代償財産として遺産分割の対象に含ましめるべきではないとして、それについての判断を求めているのであるから、各建物が遺産分割の対象とすべき代償財産であるか否かについても民事訴訟によって判断を求めることができず、これについての控訴人らの訴えも不適法であるとする。

3  しかしながら、代償財産として遺産分割の対象となるのは、相続財産について物上代位が認められるのと同様な考えによるものと解せられるが、それについての争いは、相続財産に属していた客体の変動に伴って生ずる代償請求権の存否、範囲に関する紛争として、訴訟事項に属するものである。

したがって、本件の各土地及び各建物が遺産分割の対象となるべき代償財産か否かを確定することが、家庭裁判所の審判事項の範囲に含まれ、訴訟事項たりえないとする原審の判断は是認することができない。

そうすると、この点の違法をいう控訴人らの主張は理由があり、原判決主文第一項は取消を免れない。

二一二土地に関する確認請求

控訴人らの請求は、一二土地が昭和四七年三月二二日以降亡智之の固有財産となり、同人の相続人である控訴人らの所有であることの確認を求める趣旨と解せられるところ、当裁判所も、右請求は理由がなく棄却すべきものと判断するが、その理由は、原判決理由二に説示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決一〇枚目裏八行目の「〈書証番号略〉」を削る。)。

控訴人らは、被控訴人喜代一が遺産分割協議書(〈書証番号略〉)の作成に関与したとして種々主張するが、右主張に係る事情は、いまだ前記認定判断を左右するに足りず、他に、智之が前記一二の土地を遺産分割協議により取得したことを認めるに足りる証拠はない。

三結語

よって、控訴人らの請求中、原判決添付別紙物件目録記載一ないし一一の各不動産に関する部分をいずれも却下した原判決主文第一項は違法であるから、民訴法三八六条、三八八条により原判決主文第一項を取り消し、控訴人らの請求中、前項の部分の訴えを大阪地方裁判所堺支部に差戻すこととし、控訴人らのその余の請求(当審で交換された請求)を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官志水義文 裁判官高橋史朗 裁判官松村雅司)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例